廃屋の裏から、1人の女性が姿を現しました。
その人はナスビー博士たちの前に向かって歩いて来ました。

ナスビー「・・・ヴィナスさん!」
博士がヴィナスと呼ぶその人は、鮮やかな紫色の肌をしたナスの美しい女性でした。
ウェーブがかった長い髪、背が高く気丈な瞳をしたその人はまるで女神のようでした。とても博士の知り合いとは思えない美女です。
ナスビー「ヴィナスさん!・・・奇跡じゃないか、本当にまたここで会えるなんて!」
ナスビー博士はサングラスを外して、ヴィナスさんの美しさに見惚れていました。
クリビー「ヴィナスさん???」
モモビー「な、どういうことだ?」
ナスビー博士以外、訳のわからない一同です。

ナスビー「ヴィナスさん、あなたがここにいるということは、あの約束通り・・・」
ヴィナス「・・・やっぱりアンタ、本当に来たんだな。元気そうでよかったぜ。」
ヴィナスさんは美人なのにちょっと乱暴で勝気な感じの喋り方をする人でした。
クリビー「博士~、お昼ご飯はどうするの?」
博士は目を輝かせて何かブツブツと言っており、クリビーの声が耳に届かないようでした。
ヴィナスさんと対面してから、博士の心は上の空です。
クリビー「だめだこりゃ・・・。」
ネギーン「ヴィナスさんって、誰なんでしょう?」
モモビー「謎だな。そもそも、朝から博士の行動、やっぱり怪しいよな・・・。」
クリビー「怪しいどころじゃないよ!そもそも、わざわざ遠いこの海まで来たのも『ヴィナスさん』と何か関係があるんじゃないの?」
クリビー「ねぇ、マルナスさんは何も聞いてないの?」
マルナス「聞いてる訳ありませんヨ!新しい発明品を君たちに試してもらうこと以外にワタシは何も知りまセーン!」
クリビー「・・・そうなんだね。」
このままでは読者のみなさんも訳がわかりませんので、説明しますね!
それは、今からちょうど15年前のことです。
ナスビー博士とヴィナスはこの海の家で出会いました。
この場所、スナスナ海水浴場は今よりも少しだけ多くの観光客で賑わっていました。

若き日のナスビー青年は、当時大学生でした。ナスビー青年は同じ大学の男友達であるニラのニラッチと2人でこの海に遊びに来ていました。
その目的は、いわゆる『ナンパ』です。しかし『ナンパ』は上手くいかず、ナスビー青年は疲れ果てていました。

海の家にて。
ナスビー「はぁ〜、何組かイイ感じと思ったけど、連絡先聞いたら全員から断られるなんて。」
ニラッチ「・・・そんな上手くいく訳ないだろ。だいたい海にいるような女が俺たちみたいなガリ勉に連絡先教えるかっての。」

ナスビー「そうだけど・・・。お前はいいよなぁ、顔がいいから。お前だけ逆に連絡先聞かれてたじゃん!教えれば良かったのに!」
ニラッチ「俺にはナンパの趣味はないんだ。お前が一人じゃ心細いって言うから付き合ってやって・・・。」
ナスビー「・・・可愛い!」
ニラッチ「は?」
ナスビーはニラッチとの会話中、よそ見をしていました。ナスビーの目線の先には、星の髪飾りで長い髪をふんわりと1つにまとめたナスの若い娘がいました。

ナスビー「・・・見ろ、あのナスの店員の子、めっちゃ美人だ!」
ニラッチ「・・・たしかに。」
ナスビー「よし!俺、声かけてみるわ!」
ニラッチ「よせって!お前じゃ、絶絶絶絶絶っ対に無理だ!・・・って、あ、もう話しかけてるっ!」
ナスビー「すみません、一目惚れしました!僕はナスビー、あなたのお名前は?」
このときナスビーが話しかけた女性がヴィナスでした。ヴィナスは海の家で短期のアルバイトをしていました。
ナスビー青年はちょっと嫌そうにしているヴィナスにどんどん話しかけました。
ナスビー「あの、僕、実は優秀な大学に通ってまして・・・ここだけの話、将来有望なんですよ!よかったら、僕とお付き合いしてもらえませんか?」

ヴィナス「・・・アンタ大学生か。申し訳ないけどあまり優秀そうには見えないな。」
ナスビー「そ、そうですか。それで、お返事は?」
ヴィナス「・・・ないな。」
ナスビー「えー、なんでですか?」
ヴィナス「今バイトで忙しいから。」
ナスビー「それが断る理由ですか?」
ヴィナス「・・・そうだよ、オレは休みなしでバイトしてんだ。」
ナスビー「そんなにバイトが好きなんですか?」
ヴィナス「バーカ!好きで働いてるんじゃねーよ!金が必要なんだよ、金が。」
ナスビー「(・・・なんだか結構気が強い子だなあ。)じゃあ、お金が貯まったら、付き合ってくれる可能性はありますか?」
ヴィナス「う~ん・・・。」
ナスビー「(あ、少し考えてる!)」
ヴィナス「悪りい。それも、ねぇわ。」
ナスビー「待って下さい!今、ちょっと迷ってましたよね?実は僕、こう見えてお金持ちなんです!お金は僕が用意します、だから、あなたはもうそんなに働かなくて済みます!なので、僕とお付き合い、今日からどうですか?」
ヴィナス「はぁー?普通自分で金持ちって言う?めっちゃ感じ悪りぃな!どうせ親の金だろ?」
ナスビー「まあ・・・正確に言うと、父の遺産を相続していまして・・・。」
ヴィナス「アンタ、まだ若いのに、親父さんを亡くしてんだな。それは少し気の毒だな。」
ナスビー「まあ・・・正確に言うと、父は7年以上行方不明でして、確実に死んだとはわからないのですが・・・。そんなことより!どうです?とにかく、あなたがしばらくここでバイトして稼ぐくらいのお金はあるんで!」
ヴィナス「アンタ、ホントむかつくな!当然お断りだ!金は自分の力で貯める。」
ナスビー「うぐっ、そうですか・・・。見た目も素敵ですけど、信念も強いんですね。そういうところも素敵ですぅ・・・。」
ヴィナス「うっわ、ウザいだけじゃなくて、キモいな、アンタ・・・。」
ナスビー「酷いなぁ!キモいって!思っても口にしないで下さいよ!」
ヴィナス「なんでだ?こういうことは思ったら言ってやった方がいいだろ?言わなかったらてめぇのためになんねーだろーが。」
ナスビー「あああ・・・なぜだろう、僕って家庭的でおしとやかな人の方が好きなのに、ちょっと乱暴で気が強いあなたのことは好きみたいですぅ。」
ヴィナス「キッモっ!」
ヴィナスはとても嫌そうな顔をしてナスビーから離れ、仕事に戻ってしまいました。
ニラッチ「なんだあの女、美人なのにひでぇ言葉遣い。俺だったら無いわ〜。」
ナスビー「な!今のやりとり聞いてたか!?完全に脈ありだーーー!」
ニラッチ「え?お前、速攻で断られてなかった?あれで脈あり?」
ヴィナスの態度をポジティブに考えるナスビーに対してニラッチはドン引きしていました。
ニラッチ「ハァ・・・俺もう付き合いきれないわ。」
その後、ニラッチはナスビーのヴィナスへの片想いのための行動に付き合うことはありませんでした。
その日以降のこと・・・
その夏の間、ナスビーは時間があればその海の家に客として一人で何度も通いました。ヴィナスと少しでも距離を縮めたかったからです。

ナスビー博士のしつこい性格はこの頃から変わっていないようです・・・。
最初は迷惑に思っていたヴィナスでしたが、何度も店に来ては素直に好意を告げるナスビーに、少しだけ情が湧くようになっていました。
そしてもう夏が終わる頃・・・
つづく
コメント