デンキチがアジサイタワーと呼ぶ、その巨大な塔は、確かに、そこにありました。
クリビー、モモビー、ネギーンの3人は、このアジサイタワーの中で次々と好きな遊びをして、楽しい時を過ごしました。
まる一日ほど、時間が過ぎたような感覚でした。いや、もっと時間が経っていたかもしれません。2、3日あるいは一週間?いやもっともっと長く・・・
デンキチ「よかったよかったッ!ちょっとの時間だったけど、君たちと知り合えて、楽しく過ごせてッ!」
クリビー「え?」
デンキチがそう言ったので、夢中になって遊んでいたクリビーは我に返り、デンキチの方を見ました。

クリビー「デンキチさん???」
その後のクリビーの記憶は、そう言いかけたところまでしか覚えていません。
・・・
ふと気がつくと、クリビーは自分の家でいつもの様に夕ご飯を食べていました。
モグモグ・・・

口の中に甘〜いナポリタンスパゲッティの味がしました。
クリビー「(あれ?僕はあれからどうやって家に帰って来たんだっけ???・・・モグモグモグモグ。)」
外はもう真っ暗になっていました。
クリビー「(あ、カーテンが開けっぱなしだ・・・。)」
日が沈んだ後も変わらず雨はシトシト降り続けていました。
クリビーは立ち上がり、窓のカーテンを閉めました。そしてまたテーブルのイスに戻ります。
クリビー「(デンキチさんにありがとうのお礼も言えてないし、挨拶もしないで帰って来ちゃった・・・。)」
クリビーは食事をしながらそんなことを思いました。
その後、夕飯を食べ終わると、クリビーはすぐに布団に入り寝てしまいました。今日は遊び過ぎてとても疲れていたのでしょう。
・・・
次の日、クリビーたちは学校に行く日でした。
朝になり、昨日まで続いた雨はどこかに消え、雲一つないすっかり晴れた空になりました。
クリビーはいつものように学校へ向かいます。
モモビー「おはよっ!昨日は楽しかったなっ!」
ネギーン「おはようございます!昨日は楽しかったですね!」

クリビーは、ちょうど校門の前で、モモビーとネギーンに会いました。
クリビー「おはよー!うん、すごく楽しかったね!」
3人は軽く挨拶をすると、もう登校時刻が迫っていたので、それぞれ足早に教室へと向かいました。
・・・
放課後になりました。
3人は今日もまた一緒に遊ぶ約束をしました。
昨日行ったはずのアジサイタワーの場所を確かめに行こうとなったのです。
クリビーは一旦ランドセルを置きに家へ帰りました。そして、集合場所の、アジサイタワー付近の脇道の前まで向かいました。
クリビーが集合場所に着くと、既にモモビーとネギーンがそこにいました。
クリビー「お待たせ!・・・って、あれ?」
モモビー「そうなんだよ。無いんだよ、アジサイタワーが・・・。」

ネギーン「おかしいですよね・・・。この脇道からそんなに遠くまで歩いてないと思うんですが・・・。」
クリビー「そうだよ!あんなに大きくて目立つ建物だったら、絶対にこの場所から見えるはずなのに!!!」
3人はとても不思議な気持ちでした。
実は3人とも、昨日あったアジサイタワーのことを、学校の他の友達にも、誰にも話していませんでした。
正直、3人とも、デンキチに会ってからの記憶が曖昧でした。
自分たちでも、夢を見ていたんじゃないかと疑うくらいです。
クリビー「・・・ねぇ、ネギーン。3人とも同じ夢を見ることってあるのかな?」
ネギーン「確率はものすごく低いと思いますが、そういうことがないとは言えないですね・・・。」
モモビー「・・・。」
クリビー「なんだか、昨日のたった一日のことなのに、何日も何日もずっと長い間好きなことして遊び続けてたような感じがするんだ。」
ネギーン「僕もです。1週間、いや、1ヶ月くらい、いや、もっとでしょうか。あのタワーの中で過ごしていたような気もします・・・。」
モモビー「そんなはずないさ!おれっちたちは雨の中さまよって、あそこに着いたときはもう昼過ぎくらいの時間だったんだぜ?」
クリビー「う〜ん・・・。」
3人はだんだん口数が少なくなってきました。時間が経つにつれて、アジサイタワーでの記憶がどんどん薄れてゆくのでした。
3人は脇道の奥へと進み、本当に何も無いのか、周辺を散策してみることにしました。
クリビー「・・・確か、この辺りだった気がするんだけど。」

ネギーン「僕もそう思います。」
モモビー「・・・。」
周囲には、ただアジサイの木がたくさんあるだけで、大きなロケットがあった跡形も、何もありませんでした。
モモビー「なぁ、なんか気味が悪くないか?」
実は3人の中で一番の怖がりのモモビーは、どう考えても幻のような経験をしたことが怖くなってしまったようです。

クリビー「デンキチさんはどうして急にいなくなっちゃったのかなぁ・・・。」
ネギーン「・・・デンキチさんは雨が好きって言ってましたから。今日、晴れてしまったからここは過ごしにくかったのでは?」
クリビー「そうかなぁ?アジサイタワーの中にいれば天気なんか関係なくいつでも快適なんだよ?」
ネギーン「だからこそですよ!科学が進歩して、人工的に快適な環境を作れたとしても、やはり本来あるべき自然の中にいたいと思うのが生物の本能なのではないでしょうか?」

ネギーン「アジサイタワーはとてもカラフルで美しいし、快適な空間でしたけど、本物の雨、本物のアジサイの色とは違います。本物の自然の美しさ、心地よさを感じたくて、彼は宇宙を旅していたのかもしれません。」
モモビー「な、なんかネギーン、難しいこと言ってるなぁ・・・。」
ネギーン「・・・というドキュメンタリー映画を見たような気がします!アジサイタワーの中で、ですよ!」
モモビー「なぁ、やっぱりなんか不気味だぜ!今後、アジサイタワーのことを誰かに話すのはやめようぜ!どうせ信じてもらえないだろうし、自分でもよくわからなくて気持ち悪いや!」
こうして3人の不思議な経験はその後、3人の口からあまり語られることはなくなりました。
デンキチがクリビーたちに話しかけてきた理由も、急に帰ってしまった理由も、それが本当に起きたことなのか夢なのかも、何もわからないままでした。
またいつかどこかでデンキチに会えたら、そのときに聞いてみようと思うクリビーでした。
そして次の日・・・
学校の昼休みの時間になりました。クリビーは少しボーッとして、授業が終わっても教科書とノートを広げたまま、机に座っていました。

すると、隣のチンゲン君が誰かと話をしている声が聞こえました。
チンゲン「昨日、虹色のロケット飛んでった・・・。」
クリビー「え!?」
クリビーはビックリして飛び上がり、チンゲン君の言葉に耳を疑いました。
クリビー「チンゲン君!!今、なんて!?」

チンゲン「だから、昨日、虹色のロケット飛んでったから。きれいだったのだ〜。」
ジャガイモ太「ウソだ〜。虹色のロケットなんて、そんなのが飛んでたらニュースになるって!」
ニンジ「チンゲン、さすがにそれはウソってわかるわ〜。」
チンゲン「いひひひひ。」
チンゲン君と話していたジャガイモ太とニンジは、ロケットのことを全く信じていませんでした。またチンゲン君の、いつもの冗談と思っているようです。
チンゲン君は笑っているだけで、ロケットことについてそれ以上何も言いませんでした。
クリビーも、ビックリしましたが、モモビーが怖がっていたこともあり、これ以上ロケットのことをチンゲン君に聞くのはやめました。
チンゲン君が言っていたことが本当だとしたら、やはりデンキチさんは再び宇宙へと旅立ってしまったのかもしれません。
またデンキチに会える日は来るのでしょうか。その日まで、クリビーたちはこの不思議な経験を覚えているのでしょうか。

アジサイタワーのおはなしはこれでおしまいです。
おしまい
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