【第20話】最後の海#3

廃屋の裏から、1人の女性が姿を現しました。

その人はナスビー博士たちの前に向かって歩いて来ました。

ナスビー「あなたは・・・ヴィナスさん!」

ヴィナス「久しぶりだな。元気そうでよかったぜ。」

博士がヴィナスと呼ぶその人は、濃い紫色をしたナスの美しい女性でした。

ウェーブがかった長い髪、背が高く気丈な瞳をしたその人はまるで女神のようでした。とても博士の知り合いとは思えない美女です。

ナスビー「ヴィナスさん!・・・奇跡じゃないか、本当にまたここで会えるなんて!」

ナスビー博士はサングラスを外して、ヴィナスさんの美しさに見惚れていました。

クリビー「ヴィナスさん???ね、どういうこと?」

ナスビー博士以外、訳のわからない一同です。

ナスビー「・・・ヴィナスさん、、、もしかして、あの約束をまだ覚えてくれていたんですか?」

ヴィナス「・・・まあな。まさか本当にまたアンタと会うことになるなんてな。アンタにはいつも参るぜ。」

ヴィナスさんは美人なのにちょっと乱暴で勝気な感じの喋り方をする人でした。

クリビー「博士~、お昼ご飯はどうするの?」

博士は何かブツブツと独り言を言っており、クリビーの声が耳に届かないようでした。

ヴィナスさんと対面してから、博士の心は上の空です。

クリビー「だめだこりゃ・・・。」

ネギーン「『ヴィナスさん』って言っていますね・・・。誰なんでしょう?」

モモビー「謎だな。そもそも、朝から博士の行動、やっぱり怪しいよな・・・。」

クリビー「怪しいどころじゃないよ!そもそも、わざわざ遠いこの海まで来たのも、『ヴィナスさん』と何か関係があるんじゃないの?」

カッコつけた高級車のレンタル、カッコつけたサングラス、海に着くまでのノリノリな様子、変な臭いの香水・・・博士の行動がおかしいのは明らかです。

クリビー「ねぇ、マルナスさんは何も聞いてないの?」

マルナス「聞いてる訳ありませんヨ!でも、新しい発明品を君たちに試してもらうというのは本当のことデース!それ以外ワタシは何も知りまセーン!」

クリビー「・・・そうなんだね。」

ここからナスビー博士の回想シーンがはじまります・・・。

これは博士以外の4人は知らないお話です。特別に読者のみなさんに見せてあげますね!

15年前・・・

この場所、スナスナ海水浴にて。

ある日のこと、当時大学生だったナスビーは男友達と2人でこの海に遊びに来ていました。その目的は、いわゆる『ナンパ』です。しかし『ナンパ』は上手くいかず、ナスビーは疲れ果てて休んでいました。

海の家「海岸物語」にて。

ナスビー「はぁ〜、何組かイイ感じと思ったけど、連絡先聞いたら全員から断られるなんて。」

男友達「・・・そんな上手くいく訳ないだろ。だいたい海にいるような女が俺たちみたいなガリ勉風の男に連絡先教えるかっての。」

ナスビー「そうだけど・・・でもお前はいいよなぁ、顔がいいから、お前だけ逆に連絡先聞かれてたじゃんか、教えれば良かったのに!」

男友達「俺にはナンパの趣味はないんだ。お前が一人じゃ心細いって言うから付き合ってやってるだけだ。」

ナスビー「・・・可愛い!」

男友達「は?」

ナスビー「・・・見ろ、あのナスの店員の子、めっちゃ美人だ!」

男友達「・・・たしかに。」

ナスビー「よし!俺、声かけてみるわ!」

男友達「よせって!お前じゃ、絶絶絶絶絶っ対に無理だ!・・・って、あ、もう話しかけてるっ!」

ナスビー「すみません、一目惚れしました!僕は優秀な大学に通ってまして、将来有望です。よかったら、連絡先教えてもらえませんか?」

このときナスビーが話しかけた女性がヴィナスでした。ヴィナスは海の家で短期のアルバイトをしていました。

ヴィナス「ごめん、そうやってよく言われるけど、オレ今金貯めてて、しばらくバイト掛け持ちで忙しいから、付き合うとか無理なんだわ。」

ナスビー「そ、それが断る理由ですか?」

ヴィナス「そうだけど?」

ナスビー「じゃあ、お金が貯まったら、付き合ってくれる可能性はありますか?」

ヴィナス「・・・まぁ、無いとはいえねぇな。」

ナスビー「本当ですか!・・・実は僕、こう見えてお金持ちなんです。お金は僕が用意します、だから、君はもうそんなに働かなくて済みますよ!なので、僕とお付き合い、考えてもらえませんか?」

ヴィナス「いや、いい。金は自分の力で貯めてーから。」

ナスビー「そ、そうですか・・・見た目だけじゃなくて、意外と芯が強くて素敵だなぁ・・・。」

ヴィナス「なんか、お前キモいな・・・。」

ナスビー「酷いなぁ!思っても口にしないで下さいよ!」

ヴィナス「なんでだ?こういうことは思ったら言ってやった方がいいだろ?言わなかったらてめぇのためになんねーだろーが。」

ナスビー「あああ・・・こういう芯の強い人本当に好き。」

ヴィナス「キモッ。」

ナスビー「思ったら言った方がいいって言うから!」

ヴィナス「いや、そういうことは言わない方がいいぜ・・・。なんか勘が悪い奴だな、お前。悪りぃ、オレ忙しいから、じゃあな!」

ヴィナスはナスビーから離れ、仕事に戻ってしまいました。

男友達「なんだあの女、美人なのにひでぇ言葉遣い。俺だったら無いわ〜。」

ナスビー「な!聞いてたか!?可能性、無いとは言えないって言ってたよな!?完全に脈ありだーーー!」

男友達「お前、本気か?あれで脈あり?お前のそういうポジティブなところ尊敬するけど、俺はもう付き合いきれないぜ。これからは一人で頑張ってくれ!」

その日以降のこと・・・

その夏の間、ナスビーはその海の家に客として一人で何度も通いました。ヴィナスと少しでも距離を縮めたかったからです。

最初は迷惑に思っていたヴィナスでしたが、何度も店に来ては素直に好意を告げるナスビーの本気に少しだけ心が動き始めていました。

そしてもう夏が終わる頃・・・

つづく

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